本稿は、11月6〜8日に開催されている B Dash Camp 2024 Fall in Fukuoka の取材の一部。
札幌で開催中のスタートアップ・カンファレンス「B Dash Camp 2024 Fall in Fukuoka」のピッチコンペティション「Pitch Arena」には約100社から応募があり、書類審査・面接を通過した15社のスタートアップが予選に登壇、このうち7社がファイナリストに選ばれた。決勝では、ショート映画特化配信サービス「SAMANSA」を運営する SAMANSA が優勝した。
Pitch Arena ファイナルラウンドの審査員を務めたのは、
- 清明祐子氏(マネックスグループ代表執行役社長 Co-CEO)
- 長井里実氏(野村證券 コーポレート・ファイナンス八部部長)
- 舛田淳氏(LINE ヤフー 上級執行役員 エンターテインメントカンパニー CEO)
- 宮田昇始氏(Nstock 代表取締役 CEO/SmartHR 取締役ファウンダー)
- 吉田浩一郎氏(クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO)
- 渡辺洋行氏(B Dash Ventures 代表取締役社長)
……の6人の皆さん。
本稿では、ファイナリストの顔ぶれとピッチの様子をランダウンしてみたい。
【優勝】【野村賞】SAMANSA by SAMANSA
SAMANSA は、平均再生時間10分程度のショート映画に特化した配信プラットフォームを運営している。世界中から作品を買い付け、他の配信サービスでは視聴できない独自コンテンツを中心に展開している。展開地域は日本国内に留まらず、すでにアメリカ市場へ進出。さらに韓国やヨーロッパ市場でも、日本以上の成長スピードで事業を拡大中だ。SNS を活用したバイラルマーケティングによって、効果的なユーザ獲得を実現している。
創業者の岩永裕一氏は映像制作のバックグラウンドを持ち、幼少期に家族が経営していた映画館の倒産という経験から、映画産業の未来について深い問題意識を抱いていた。コロナ禍以前からショート映画市場の可能性に着目し、事業化を決意した。映画産業全体が変革期を迎える中、SAMANSA は「映画分野における世界標準」を目指している。昨年からショート映画作品の IP 展開に注力しており、オリジナルグッズの開発など、コンテンツビジネスの領域を積極的に拡大している。
【準優勝】aiESG Flow by aiESG
aiESG は、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価を専門とする研究機関から派生した九州大学都市研究センター発のスタートアップだ。AI 技術を活用し、さまざまな ESG 評価サービスを提供している。具体的には、人工衛星データと機械学習を組み合わせた分析、製品のESG 評価によるサプライチェーンの再編、環境影響や人権への影響評価などを行う。また、ChatGPT を活用した統合報告書の改善支援なども手がける。同センターは書籍40冊、論文500本、研究予算案件で日本最大の実績を持ち、その技術基盤を活かしたビジネス展開を進めている。
ESG 分野における最大の研究者・技術者集団としての強みを活かし、社会的インパクトの創出を目指している。特徴は大きく3つあり、1つ目は日本最大規模の ESG 研究機関からのスピンアウト企業であること、2つ目は AI 技術を幅広く活用し、人工衛星データから製品評価まで多角的なアプローチが可能なこと、3つ目は研究機関としての専門性と事業化の両立を図っていることだ。今後は、グローバルな ESG 評価の需要に応えるべく、プロダクトの開発と展開を加速させる方針を示した。研究開発拠点を九州に置きながら、世界市場を視野に入れた展開を目指している。
【NOVASELL 賞】【UPSIDER 賞】【Tayori 賞】Check Inn by Check Inn
Check Inn は、ホテル向けの統合システムを提供している。客室管理システム、在庫管理システム、自社予約システム、チェックイン機の4つを一体的に提供する日本唯一のスタートアップである。特に在庫管理によるダブルブッキング防止に強みを持つ。インバウンド観光客の増加に伴い、2030年には観光消費額が15兆円に達する見込みだが、宿泊業界のオペレーションは依然としてレガシーな状態にある。システムどころか、紙やノートを使用している場所も珍しくないのが現状である。
同社はこの課題を解決し、日本の観光産業のインフラとなることを目指している。地方旅館や特徴ある旅館のオペレーション効率化を通じて、アメリカと比べて4分の1とされる利益率の改善に取り組んでいる。日本の宿泊業界は海外と比べて独特な構造となっており、この構造を変革することで、日本の観光を世界一にすることを目標としている。すでに創業4期目を迎え、宿泊業界における重要なプレイヤーとしての地位を確立しつつある。宿泊施設の DX 化を通じて、インバウンド観光客の増加に伴う需要にも適切に対応できる体制を整えている。
<関連記事>
【AGS 賞】recri by recri
recri は、エンターテインメントチケットのサブスクリプションサービスを展開している。日本のエンターテインメント市場には年間3,000億円相当の空席があるという課題がある。その背景には、アナログな業態、価格の硬直性、観客の高齢化、初心者向けの情報不足などの問題が存在する。このサービスは、ユーザの好みや予定に合わせて毎月チケットを届ける仕組みを提供している。AI を活用したマッチングシステムにより、ユーザと作品をマッチングし、舞台や展覧会のチケットを提案する。
チケットには解説が付き、鑑賞後のアンケートによってレコメンドの精度を向上させている。現在、大手興行主の多くと提携しており、30代から50代の女性を中心に利用されている。累計売上3,800万円、継続率93%を達成している。今後は、ユーザ数の拡大やカテゴリー拡充を目指すとともに、収集したデータを活用してオリジナル興行の制作も視野に入れている。エンターテインメント業界の構造的課題を解決し、作り手と観客を結ぶプラットフォームとして成長を目指している。
<関連記事>
【パーソル賞】BLUE PaaS by BLUEISH
BLUEISH は、業界特化型の AI アプリケーションを開発している。ビジネスプロセスの完全自動化を目指している。主な事業は3つあり、①独自のワークフロー PaaS 型プラットフォームの提供、②日本初となる PaaS 型オンラインサービスアシスタント、③PaaS 支援特化型マネージャー育成を展開している。強みは、独自の業界特化型 AI ワークフロー開発モデル、世界的データセンターとの連携による堅牢なインフラ、そして生成 AI による業務プロセス評価の独自アルゴリズムを有している。
1年かけて開発したこれらの技術基盤を活用し、ビジネス課題の解決に取り組んでいる。特に、業界特化型の AI ワークフロー開発モデルは、各産業における固有の業務プロセスに対応できる柔軟性を持ち、カスタマイズ性の高いソリューションを提供できる点が特徴である。エクセディとの提携により、高度なセキュリティと安定性を確保しつつ、プライベート環境での AI 構築にも対応可能な体制を整えている。また、生成 AI 技術を用いた業務プロセス評価システムは、1年間の開発期間を経て確立された独自のものであり、より効率的なビジネスプロセスの実現を支援している。
UKABU by UKABU
UKABU は、会話支援ツール「UKABU」を開発している。顧客対応や営業時の会話において、その流れに合わせて次に話すべき内容を表示するシステムを提供している。複雑な顧客対応や、様々な顧客に合わせた案内の仕方を提案することで、従業員の早期戦力化を支援する。テクノロジーと人間の対立ではなく、顧客と会話をする人をテクノロジーでサポートすることをビジョンとしている。企業にとって言ってはいけない内容の管理なども可能だ。
コールセンターやインサイドセールスの担当者は UKABU を利用することで、後から「あのとき、ああ言えばよかった」「あんなことを言わなければよかった」という後悔を減らすことができる。特に新人社員の育成や、複雑な業務フローの習得において効果を発揮する。会話の流れに応じて適切な情報を提示することで、スムーズな顧客対応を実現し、顧客満足度の向上にも貢献している。テクノロジーを活用しながらも、人間的な温かみのあるコミュニケーションを維持することを重視している点が特徴だ。
Omiisay by Omiisay
Omiisay は、日本企業の海外進出を革新的に支援する事業を展開している。現在、歴史的な円安により、過去10年で最悪の円安倒産件数を記録している状況下で、多くの日本企業が海外進出を迫られているが、許認可取得などの複雑な手続きにより、約9割の企業が販売開始前に断念せざるを得ない状況にある。この課題に対し、Omiisay は「現地法人設立なしでの海外出店」を可能にするサービスを提供している。
従来の海外進出では、現地法人設立から店舗出店までに約1年半の期間と1,000万円規模の初期投資が必要だったが、Omiisay のサービスでは月額約400万円の委託費用のみで、短期間での海外出店が実現可能となる。同社は、進出プロセスをウェブサービス化し、現地での申告手続きをワンストップで完結できるシステムを構築している。特に ASEAN 地域を重点市場と位置付け、300兆円規模の市場獲得を目指している。迅速な行動力と実行力を持つ同社は、日本企業のグローバル展開を加速させるインフラ企業としての地位確立を目指している。
<関連記事>
Members
BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
この記事は会員限定です。無料登録で続きをお読みいただけます。
Members
BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT
100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。